
七宝焼の種類と技法。有線七宝・無線七宝・省胎七宝・泥七宝の違い
七宝焼の種類を調べると、有線七宝、無線七宝、省胎七宝、泥七宝と、さまざまな種類が例に挙がる。
大別すると、分類の軸はたった二つしかない。何を土台に使うかと、金属線を残すか消すか。この二軸に当てはめるだけで、ほとんどの種類が整理できる。
七宝焼の種類は「素地」と「線」の二軸で整理できる
七宝焼の技法は、材料の違いと製作方法の違いによって大きく分けられる。具体的には「素地(きじ・たい)に何を使うか」と「金属線で仕切るかどうか」の二軸。
| 分類軸 | 主な種類 |
|---|---|
| 素地による分類 | 金属胎七宝/省胎七宝/透胎七宝/ガラス胎七宝 |
| 線の有無による分類 | 有線七宝/無線七宝 |
| その他の技法 | 象嵌七宝/泥七宝/ジグソー七宝 |
この表を頭に置いておけば、初めて見る名前が出てきても「素地の話か、線の話か」で仕分けられる。
なお七宝焼の基本は、銅や銀などの金属素地にガラス質の釉薬を乗せ、摂氏800度前後で焼成すること。この基本形をどこか一点だけ変えたものが、それぞれの種類として名前を得ていると考えるとわかりやすくなる。
「素地」で分ける七宝焼の種類──金属胎・省胎・透胎・ガラス胎
まず土台の違いによる種類。
金属胎七宝(きんぞくたいしっぽう)
鉄、銅、銀、金などの金属を素地に用いる、最も一般的な種類。素地の名前に応じて、銅胎七宝・銀胎七宝などの呼び方がある。七宝焼といえば通常このタイプを指す。花瓶、飾り皿、額、装身具など用途は幅広く、産地の主力製品もここに含まれる。
省胎七宝(しょうたいしっぽう)
銅の素地に銀線で模様をつけて七宝釉を焼き付けたあと、酸で素地を腐食させて溶かし、表面の七宝部分だけを残す技法。金属の土台がなくなるため光が透け、ステンドグラスのような効果が生まれる。
透胎七宝(とうたいしっぽう)
銅の素地の一部を切り透かしにして透明釉を施し、残りの部分には通常の七宝を施す技法。透けるところと透けないところの対比が生まれる。
ガラス胎七宝
ガラスを素地に用いる技法で、金属胎を基本とする七宝の定義からは外れた変則的な種類。
「線」で分ける七宝焼の種類──有線七宝と無線七宝の違い
七宝焼の種類のなかで、作品の印象を最も大きく左右するのがこの区分だ。
有線七宝(ゆうせんしっぽう)
リボン状の薄い金属線を素地の上に立てて、図案の輪郭をつくる技法。線が焼き上がりにも残るため、模様の輪郭が明快で装飾性の高い仕上がりになる。
銀のリボン線を特殊な糊で一本ずつ立てていく工程は「植線(しょくせん)」と呼ばれ、産地の技術の核となっている。京都の並河靖之(1845〜1927年)は、この有線七宝で日本画のような繊細な筆致を実現した。
無線七宝(むせんしっぽう)
釉薬の間に金属線の仕切りを設けない技法。焼成の前に線を取り除くため、色と色の境目が溶け合い、ぼかしや濃淡といった絵画的な表現が可能となる。
考案者は東京の濤川惣助(1847〜1910年)。日本画の画面を七宝で再現するという発想から生まれた技法だ。
輪郭がくっきり残るのが有線七宝、境目が溶けるのが無線七宝。この一点だけ覚えておけば、実物を前にしてもほぼ判別できる。
七宝焼の種類のなかで最も古い技法「泥七宝」
泥七宝(どろしっぽう)は、不透明な釉薬を用いる古来の技法で、平安時代から見られる七宝焼の種類。
釉薬の光沢がほとんどなく、ぺったりとした落ち着いた色面になるのが特徴。明治期に透明釉が開発される以前は、日本の七宝焼といえばこの泥七宝が主流だった。
江戸初期、小堀遠州に登用された嘉長は、桂離宮・修学院離宮・大徳寺の襖の引手や釘隠しを泥七宝で製作し、京七宝を発展させている。
ただ、この透明感がないことは欠点というわけではない。落ち着いた不透明の発色は建築金物や器の装飾によく合い、用途に応じた合理的な選択だったのだ。現在でも、中国では土産物として泥七宝の皿などが盛んに製作されている。
海外のエナメル技法と七宝焼の種類の対応関係
七宝焼の種類は、ヨーロッパのエナメル技法とほぼ一対一で対応する。アンティークジュエリーの解説を読むときに役立つ知識だ。
| 海外の技法名 | 内容 | 七宝焼での呼び方 |
|---|---|---|
| クロワゾネ(cloisonné) | 金属線で輪郭を作り、枠内をエナメルで埋める | 有線七宝 |
| プリカジュール(plique à jour) | 焼成後に箔を除去し、光を透過させる | 省胎七宝 |
| シャンルヴェ(champlevé) | 金属を彫りこみ、くぼみをエナメルで埋める | 象嵌七宝に近い |
| バスタイユ(basse taille) | 半透明エナメルで下地の彫刻を見せる | 透明釉の応用 |
| ペイントエナメル | 焼き付けた下地の上に筆で絵を描き再度焼成 | 絵七宝に近い |
クロワゾネという語はフランス語の cloison(仕切り)に由来する。「仕切る」という発想そのものが技法名になっている点で、有線七宝と完全に同じ思想の産物。
プリカジュールはアールヌーボー期のジュエリーで好まれたが、金属枠だけで支えられているため衝撃にきわめて弱いという弱点がある。省胎七宝を扱うときも同様に、取り扱いには注意が必要だ。
七宝焼の種類の見分け方と、有線七宝を守る産地
実物を前にしたときの見分け方をまとめる。
- 模様の輪郭に細い金属の線が見える → 有線七宝
- 色の境目がぼやけ、濃淡が滑らかにつながる → 無線七宝
- 光にかざすと透けて見える → 省胎七宝または透胎七宝
- 光沢が乏しく、色が不透明でマットに近い → 泥七宝
判別は比較的簡単で、有線七宝は線の断面がリボン状に立っているのが確認できる。
有線七宝を代表技法とする尾張七宝
愛知県あま市および名古屋市でつくられる尾張七宝は、有線七宝を代表技法としている。1995年(平成7年)4月5日に経済産業省の伝統的工芸品に指定された(第29次指定)。銅または銀の素地に釉薬を施し、花鳥風月や風景をあしらう点が特徴。
製造工程では、下絵に沿って銀線を植え、釉薬を差して焼成する作業を何度も繰り返し、最後に研磨して仕上げる。種類の違いは工程の違いであり、工程数の多さがそのまま価格と完成度に直結する。
